(この原稿は、2005年に法律新聞「縦横無尽」欄に掲載したものです)
昨年、平成17年、6月3日、私のホームページを見た、司法書士資格にこれからチャレンジしてみようと考えている方から、お手紙、メールを頂いた。このお手紙での私への質問は、今、司法書士資格に挑戦しようと考えている人たちにとって、共通する切実な質問でもあり、かつ、この質問に答えることは現役司法書士の義務でもあり、国民からその任務を信託された監督庁の義務でもあると思われるので、まずは現役司法書士の立場から解答を試みてみることにした。まず、その手紙の全文を紹介しよう。
初めまして。川辺美穂子(仮名)と申します。
法律相談ではないのですが、司法書士のお仕事について質問してもよろしいでしょうか。
私は、将来身近な社会問題の解決に携わりたいと思っています。司法書士に簡裁代理権が付与され、市民に身近なホームロイヤーとしての活躍に期待する声が上がっており、司法書士試験の受験を考えています。ホームページを拝見し、業務案内の内容が私の憧れる「身近なホームロイヤー」像で、とても興味を持ちました。司法書士さんのお仕事は、やはり登記に関する業務が主流なのですか?ロースクールが設立され、数年後には弁護士が増員されるそうですが、簡易裁判での司法書士のニーズは変わらないのでしょうか?また、独立しやすい業種とよく聞きますが、コネ等がなくても努力すれば独立、開業し、成功することは可能でしょうか。資格取得前に人脈がなくても、補助者として働きながら人脈を広げることは可能でしょうか。不躾な質問で申し訳ありません。一生をかける仕事としてとても魅力を感じる反面、身近に司法書士さんがいなく、入ってくる情報が予備校の謳い文句か暗い噂話なので是非実際に活躍されている司法書士さんのお話を伺いたく、お便りした次第です。
どうか宜しくご教示下さいませ。
以上が、手紙の全文であるが、以下、質問事項を個別に列挙してそれぞれについて、解答を試みてみたい。質問事項は以下のとおりである。
- 私は、将来身近な社会問題の解決に携わりたいと思っています。司法書士資格とその業務はそれにふさわしい仕事でしょうか?
- 司法書士に簡裁代理権が付与され、市民に身近なホームロイヤーとしての活躍に期待する声が上がっているようですが、その期待にこたえているのか、実際の姿を教えてください。
- ホームページを拝見し、業務案内の内容が私の憧れる「身近なホームロイヤー」像でした。勝瑞事務所の実際の仕事ぶりにつき教えてください。
- 司法書士さんのお仕事は、やはり登記に関する業務が主流なのですか?
- ロースクールが設立され、数年後には弁護士が増員されるそうですが、簡易裁判での司法書士のニーズは変わらないのでしょうか?弁護士が増員されれば司法書士はいらなくなるなんてことはないですか?
- 独立しやすい業種とよく聞きますが、コネ等がなくても努力すれば独立、開業し、成功することは可能でしょうか?
- 資格取得前に人脈がなくても、補助者として働きながら人脈を広げることは可能でしょうか?
- 身近に司法書士さんがいなく、入ってくる情報が予備校の謳い文句か、暗い噂話なので心配ですが、それでも資格取得のために多大の時間と努力とを傾注する価値があるか教えてください。
以上八つの質問につき、抽象的なテーマから答えてゆきたいと思う。
まず、「(1) 私は、将来身近な社会問題の解決に携わりたいと思っています。司法書士資格とその業務はそれにふさわしい仕事でしょうか?」というテーマについて考えてみよう。
人は生まれて死んでゆく。その意味で、生物としては、人間は全く平等である。その人生の目的は、結局のところそれぞれがそれぞれなりに自己実現を達成し満足を得て死んでゆくことに尽きる。その内容は全く千差万別であり、その選択の可能性は、偶然に与えられた環境によって経済的物理的に制限されるのが普通であるが、満足の人生を生きることとは直接の関係はない。
「私は、将来身近な社会問題の解決に携わりたいと思っています。」というのは、生き方の価値の選択として、社会「問題の解決」、それを職業として追求してみたいと言うことなのだと思う。社会「問題の解決」、そのような仕事にはこれまた多様な仕事、場合によれば、民間、あるいは公的団体の与える資格や、一定の国家資格を要するものもある。公務員も一種の資格者であり、法律の執行という手段をもって「社会問題の解決」に寄与することで、その対価として国民から報酬を得ている。そのように「社会問題の解決」という仕事にも実に様々なものがあるのであるが、そのような中で、あなたは、今、「社会問題の解決」という仕事として、司法書士法に定められた資格者によるその独占業務に注目したわけである。
その司法書士の具体的な仕事については、その現在と未来を、これからお話して行くことになるが、私は、あなたが「社会問題の解決」を自分の職業としてゆきたいと考えた最初の広い視点をいつも忘れないでいてほしいとここで強調しておきたい。「社会問題の解決」への意欲は、社会の進歩を信じ万人の幸福を願うという積極的な感情がその基調となっている。司法書士という仕事の選択は、そのような意欲と自己実現を図るための一個の手段に過ぎない。ということは、登記ビジネスの合間には、岩波文庫、トマスペインの「人間の権利」を読むといったゆとりが必要である。
予備校の受験技術は無視出来ないが、それが人生を豊かにするわけではない。「社会」に生起する「問題の解決」を「法律という手段」をもって解決してゆくのが司法書士の仕事であるが、その解決が国民に喜ばれ支持されるためには、法の世界を支える広く奥深い実際の社会経済のダイナミズムについての知識と理解が不可欠である。 |