6番目の質問は、
「独立しやすい業種とよく聞きますが、コネ等がなくても努力すれば独立、開業し、成功することは可能でしょうか」というものであった。
まず独立開業の大前提として、司法書士ばかりではなく弁護士から公認会計士、土地家屋調査士に至る業務独占資格の経済的環境が、1990年代末に根本的に変わったということを認識しなければならない。
大半の業務独占資格は、各官庁の行政作用を補完するようなものが多く、そのため内容に応じてそれぞれの官庁の監督下にあるのが普通である。例えば、官庁届出の代書をする行政書士に対しては自治省、登記申請代理については法務省といった具合である。そして官庁は一般にそのような監督下の資格業者に対して、国民利用者の保護と全国均一のサービス供給を確保することを理由に、様々な規制をすると同時に、反面、競争社会からの手厚い保護を資格業者に与えてきた。資格業者への保護としては、業務独占、新規業者への参入規制、価格規制、広告禁止、事業所規模規制等様々な手段があり、それが法制化されていたのである。
ところが、ガットウルガイラウンドで、専門サービス業が自由化されることになり、それを批准した日本政府はその趣旨に基づき各種資格についての営業保護政策を次々に緩和して行く一方、公正取引委員会も独占禁止法を厳格に適用するようになった。
参入規制緩和の例は、弁護士増員に、価格競争、広告解禁の例は、司法書士や弁護士の報酬規制撤廃、氾濫するクレサラ事件の電車中吊り広告に見られる。
つまり、現在の専門資格者をとりまく経済環境は、「独立しやすい業種とよく聞きます」とか「コネ等がなくても努力すれば独立、開業し、成功する」とか言われていた時代と根本的に、質的にも異なるのだということを良く理解しておく必要がある。
国土交通省の談合事件が摘発され、正義とされていた「和と業者共存の論理」は、倫理どころか今や国民消費者の利益に対する犯罪となってしまった。独占資格業者である司法書士も又、今日同様の状況に置かれているのである。需要者である国民を前にした専門業者間での供給調整は、零細業共存の美徳ではなく市場競争外利得の共同取得という陰謀的犯罪と評価されることになる。強制加入団体である司法書士会支部での開業者間相互の間柄は、今や、互いに商売敵なのであって、個別事務所で得たノウハウや経験は事業者間競争に打ち勝つための重要な手段となっている。
そこで私は、その状況の違いを際立たせるために、司法書士業界の価格競争禁止、広告禁圧時代の2000年以前を「供給者独占時代」、2000年以後を「消費者主権時代」と呼ぶことにしたい。司法書士をめぐる経済環境をそれぞれに区別した上で、受験生のご質問にお答えし開業後の展望を考えてみたいと思う。
さて「供給者独占時代」は毎年国家試験合格者400名前後、無試験特別認可組み100名前後と、登記サービス市場への毎年の新規参入者については厳しい数的制限が課せられていた。そして、合格者数つまり新規参入者数規制の規準についても毎年の廃業者とほぼ同数にするということが公開の文書においても明らかとされていた。この参入者規制による司法書士事務所保護政策は、国民の登記需要に対する全国一律の供給を確保するという、発展途上国型経済時代にとっては一定の合理性あるものであった。
今日のように資本ストックの無い時代に、貯金増強運動の結果、全国の勤労者の節約により集められた大衆預金を、特定産業に集中的に融資し、高度成長経済を実現する、そのためには、不動産はその担保として重要であり、担保不動産価格が上昇すれば融資枠はそれだけ増大する、この仕組みが貧乏国の高度経済成長にとっては本質的に不可欠であったのである。そして、安全迅速な不動産取引の装置、全国に張り巡らされた登記所と、周辺にあるその補助機関としてお馴染みの、白看板の司法書士事務所は、この高度経済成長と不動産担保融資を担う非常に重要な制度であった。そして全国均一の登記サービス提供も、同様に重要であったのである。
全国津々浦々に存在する司法書士事務所、実はこれは、そのような政策結果のなごりなのであって、登記所統廃合、コンピュータ登記サービス、そして市場競争原理に正面からさらされることになった司法書士事務所の配置が、今後ともそのような全国均在という国民にとっては有益な配置のままに維持できるのかそれは分からない。焼け跡、トタン屋根、東京オリンピック、新幹線・・・貧しかった日本においては、人権の基礎たる財産、不動産こそが重要であった。権利の司法的実現などは豊かな先進国の話であり、国民にとっては戦後長いこと、弁護士よりも司法書士の方が身近な法律家だったのである。小津安二郎の「東京物語」には復員してきたばかりのユカタ姿のおっさん司法書士が出てくる、松本清朝原作の東宝映画「霧の旗」には恰幅のいい大弁護士先生が登場する。そのような頃に始まり司法書士の地位は、高度成長による登記需要に支えられて年々上昇して行くのであった。
加えて言うならば、不動産神話の拡大定着とともに上昇した司法書士の地位も不動になるかに見えたのである。しかし・・・。 |