はじめに考えるべきこと
英国貿易産業省は「21世紀の消費者信用市場・・公正、透明かつ競争的な市場を求めて」と題する白書を2003年12月に公刊し、その翻訳版が2005年5月に東洋経済新報社から出版された。本白書の特徴について末尾の監訳者の言葉を引用すれば「本白書では、まず経済にとってのクレジットの重要性を再認識するところから出発している。消費者信用市場は重要な役割を担う金融セクターであり、英国経済の成長率を高めるためにきわめて重要であるとの認識に立っている。クレジットは国民全体の生活水準を引き上げる。もちろん、クレジットには個人破産や過重債務のような副作用もある。・・しかし、クレジットの価値は基本的には副作用をはるかに上回っている。そのことを前提とした上で副作用を出来るだけ小さくして行く方法を考えて行こうというのが本白書の出発点である」としている。
多重債務者200万人 自己破産24万人
わが国においても貸金業法の改正に向けて、いわゆるクレサラ問題につき、政府関係者やマスコミ関係者の間から様々な声が聞かれるようになってきた。「消費者信用市場は拡大の一途をたどり、多重債務者200万人と言われ、2003年の自己破産申し立て件数が24万人を超えるなど大きな社会問題となっているが、一般に国民の問題意識は低い。・・こうした状況下、各方面で問題解決への緊急の対応が論じられ、消費者金融のCM規制や上限金利の見直しを求める声も強くなっている」(金融庁「貸金業制度等に関する懇談会」資料8−4−2 西村隆男横浜国立大学教授)。しかし、そのような声のいずれにおいても、現実に存在し全金融取引の10%を占めるに至っているわが国の消費者信用市場について、それを国民経済の観点からいかに評価すべきであるのかという基本問題には、関係論者たちの主張は全く答えていない。
相容れない二つの立場
業者規制についても金利規制についても、それを論ずる前に、まずわが国の個人消費者の信用市場について、その存在が国民の生活利益、福祉にとって「クレジットの価値は基本的には副作用をはるかに上回っている。そのことを前提とした上で副作用を出来るだけ小さくして行く方法を考えて行こう」というの か、それとも「(個人相手の貸金業)クレジットの価値は、基本的には副作用のもたらす被害と危険のほうが上回っているから、業者規制と金利規制の強化を通じて消費者信用市場を段階的に縮小すべきである」と考えるのか、論者たちは、その基本的立場を国民の前に明らかにすべきであろう。実はこここそが消費者金融問題に関する議論の全ての出発点なのではないか。
返済のための借り入れが主役
消費者クレジットの普及は、前世紀の大量生産大量消費大量宣伝の時代に始まった。イギリスでもアメリカでもヨーロッパでも同様であり、消費者信用市場の成長は、持続的な経済成長を実現して行く上で不可欠のものであった。これは日本においても同様であった。しかし日本においては、消費者信用市場の成長の過程で、過剰クレジットからその返済のためにサラ金から借り入れをし、その高金利のために、多重債務に陥るという人達が増え始めた。さらにサラ金の暴力的取立ての弊害が並行して生じ、1975年、昭和50年頃からそれが深刻な社会問題となって行った。
貸金業法の制定
そのため、8年後の1983年、やっと今日の「貸金業の規制等に関する法律」が、昭和29年成立のいわゆる「出資法」と並ぶ形で成立したのであった。そして、この時立法された「任意に支払った場合のみなし弁済」という見出しの「貸金業法」43条が、今日に至るまで、問題となっているグレーゾーン問題の始まりとなったのである。貸金業法43条は、貸金業者が一定の要件を備えれば、利息制限法を超えて収受した超過利息分も適法に受け取れるというものであり、以来、貸金業者はこの規定を根拠に、実際には要件を満たさないまま、出資法の制限金利は超えないが、利息制限法を超える金利で消費者に金員を貸し付け、その違法な利益を取得するようになったのである。わが国の歪んだ消費者信用市場の歴史は、まさにここに始まった。
この回の結論
- あらゆる議論、立法論の大前提として、まずわが国の個人消費者の信用市場について、その存在が、長期に見て国民の生活利益、福祉、経済発展にとってプラスであるのかマイナスなのか、これを明らかにすべきである。
- わが国の個人消費者の信用市場について、その存在が国民の生活利益、福祉にとって「クレジットの価値は基本的には副作用をはるかに上回っている。
そのことを前提とした上で副作用を出来るだけ小さくして行く方法を考えて行こう」というのか、
- 「(個人相手の貸金業)クレジットの価値は、基本的には副作用のもたらす被害と危険のほうが上回っているから、業者規制と金利規制の強化を通じて消費者信用市場を段階的に縮小すべきである」と考えるのか
いったいどちらなのか? |